クラシックもオーケストラも1mmもわからない女がNHK交響楽団のコンサートを見に行った話
恥も外聞もなく言ってしまおう。
私は10年以上ピアノを習っていた。しかし、音符もまともに読めないし、バイエルすら中級で投げ出した。クラシックのCDもまともに聴いたこともなかった。
小、中学校の音楽で授業で学習したことすら危うい。
義務教育程度の知識すら危うい。
なのになぜ、NHK交響楽団のコンサートに行ったのか、というと、母がクラシックが好きだったのである。
母はクラシックに詳しいし好きだ。娘の私に3歳からピアノを習わせてクラシックを弾かせたかったくらい好きだ。
私だって、弾けるようになりたかった。初めてピアノの鍵盤にふれて、自分の指から澄んだ音が響いた感動は、いまでも覚えている。
しかし、投げ出した。
病気がちな母を、クラシックのコンサートに連れ出してやれば、喜んでもらえるのではないかと思ったのである。偶然、実家の近くで開かれたNHK交響楽団のコンサートのチラシを見て、母を誘った。母も乗り気で、行きたいと即答した。
S席、8000円だった気がする。地味にたけえ…
でも、なかなかない機会だ。母は足があまりよくないので、都内まで連れ出すのは負担が大きい。まあ、8000円で母が毎年年末にテレビで見ているNHK交響楽団が見れるなら安いのであろう…あとはA席のみ。A席は完売していた。
チケットを取ってから一か月で講演の日がやってきた。
会場は満席。お着物の女性や、ドレスの女性もいる。男性はスーツやビジネスカジュアルのファッションが多い。あれ…結構みなさんお堅い格好なのね…
小奇麗にしてきたつもりだが、なかなか小奇麗のハードルが高い場所の様だ。
ぶっちゃけ曲目は全部知らなかった。会場に入ってから、当日のパンフレットでちらっとみたくらい。
曲目は発表されていたけど曲についてなんて1mmも調べなかった。ドヴォルザークの名前と、なんか暗い曲のイメージの人、くらいしかなかった。
指揮者についても、ソリストについても一度も調べなかった。母が喜ぶならいーじゃん、くらいにしか思っていなかった。
コンサートが始まる前のチューニング。
オーボエから始まるラの音が、会場の空気を全部震わせた瞬間、全身を包む振動が、身体の奥まで入り込んできて、心臓をきゅっ、と掴まれたのを感じたのです。完全に一目ぼれした瞬間と同じトキメキ。
指揮者はリオ・クオクマン。
URLをクリックしてもらうとわかるのですが、イケメンなのです!!この線の細いやさ男顔、タイプ。登場してまず初めに、え、かっこいいじゃん…
燕尾服に身を包んで黒髪のタクトを持ったリオ・クオクマン。漠然と想像する王子様タイプの正統派指揮者といった感じ。
グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲
正統派イケメン指揮者、リオ・クオクマンのタクトから紡がれる音は、想像を通り越してかっこいい。正直に言って、リオ・クオクマンの指揮、キマっているのです。アニメの主人公みたいにかっこよくて、顔に似合う良さ。かっこいい人がかっこいいことしてるって、めっちゃいい…
あんまり曲については詳しく覚えていないのですが、今聞いてみたらバイオリンが綺麗で、響きやリズムも軽やかでいい曲ですね。
二曲目は、プロコフィエフ/ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26
まあ、度肝を抜かれました。まず、服装が。
この日全体通してそうなのですが、あまり曲については記憶がないのです。ただ、あの小曽根真の服装だけは覚えています。真っ赤な燕尾服のような形の、てろてろなシャツ…
しかも、小曽根真の顔が、濃いのです。
「え、ラテン系のダンスとか踊る方ですか…」と思わず言いそうになるくらい。
曲が始まったらステージにくぎ付けでしたけどね。
今聞いたら、管とピアノの音がめちゃ綺麗ですね。ただ、小曽根真が弾いていたんで、こんな感じのリズムではなかったことは確かです。
曲が終わったら、リオ・クオクマンがステージ袖に引っ込んだ小曽根真を何度もステージに連れ戻していました。そのたびに観客は拍手。
イケメン、ラテンを気に入ったんやな、といった感想。
休憩をはさんで3曲目 ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88
覚えていません…
終わって、小曽根真とリオ・クオクマンに何度も拍手を送って、アンコール。
アンコールはバッハ
リオ・クオクマンが、弾むつま先で指揮台に飛び乗って、指揮台の手すりに両肘をついて
それはまるで、リオ・クオクマンが2階のベランダにいて、庭先に意中の女の子でもいるかのように
「Thank you.Encore Schafe Können sicher weiden.Johann Sebastian Bach」
と流暢な英語で囁いたのです。
かっこよすぎかよ。その時気づいたのですが、コンサートホールって、囁くような声でも、こんなに音が届くから全部綺麗な音なんだな、と。
この動画よりペース早かったですね。流れるような美しい指揮でした。
ぽーっとするような、高揚感が、すべて終わった後に体に残っていました。
ちなみに母の感想は、「面白かった!いろんな楽器あるけど、生で聞くとどれからでてるかよくわかるね!どこみていいかわかんなかった!」でした。え、それだけ…
私はその日のうちに一週間後、リオ・クオクマンをもう一度見るために、小曽根真&ピーター・アースキン"Jazz meets Classic" with 東京都交響楽団のチケットを買ったのでした。